この作品には、ストーリーがあります。まず、体験者には死んでいただき、別の死者の記憶を体験していただく。それは遠い昔、知識も友達の脳も、直接「体験」できる時代だった。それが突然変わったのは、ヒトの脳を溶かし、1本1本神経を取り出し、紙として織る技術が生まれた頃。人々は技術の魅力に呑まれ、脳を奪い合うようになってしまった。だから、今は人の脳に直接触れるような体験は禁止され、かわりにVRの体験が提供されている。後世に今までのような脳の体験は戻らなくても、せめてVRで、心が刺激され生が実感できる体験がもたらされますように。と、こんな風に終わりますが、最後の一文が最大のテーマ、「今を生きる人々への愛」です。もしVRが、過去の誰かが後世に「体験」を残すことを願った結果生まれたものだとしたら。その願いに触れたときの感情の動きが、私が本当に作りたい体験です。
2020 Mayuka Otsuki